すごい本に出会ったぞ:八槻翔 「オカルトトリック Smoke And Mirrors」

  • 2018.10.16
すごい本に出会ったぞ:八槻翔 「オカルトトリック Smoke And Mirrors」
オカルトトリック Smoke And Mirrors (N-angou文庫)
(2018-09-23)
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なにを隠そう、自分は八槻翔のファンだ。

この本は面白い!八槻翔「オカルトトリック」

彼の作品は全部読んだ。1作だけUnlimitedで読めない作品があるが、それも買って読んだ。だからこそ面白くないものは「なんでこんなレベルの作品を出した?駄作もいいところ」と酷評もした。

八槻翔「もしRPGの世界で殺人事件が起こったら。」3作を一気読みしたのでレビュー

そんな彼が初代オカルトトリックのスピンオフを出した。それが本作。

スピンオフなので本作だけでも楽しめると書いているが、どうせ読むなら初作のオカルトトリックも読んでから本作を読むべきだ。楽しさが全然違う。

この作者の秀逸さは、まず作品のテーマがまず目新しく映るように設定されているところ。オカルトトリックシリーズならヒロインは天才奇術師、ライバルは天才的な占い師、パシリの主人公は陰陽師(の見習い)。

RPGシリーズなら、RPGという世界観を現実的な人間模様に持ち込んでいるところ。

だから、「面白いなぁ」と感じながら読み進めることができる。

しかし、この作者のすごいところはそこではない。いや、舞台の目新しさだけでも十分すごいのだが、読書好きなら年間100冊以上は読んでるだろうから、たいがいの目新しい世界には慣れているわけで、すれた目で本を読んでいることだろう。

だから、そのまま終わっていれば「ちょっとおもしろい設定だったね」で終わるはずだ。

彼が突き抜けているのは、一見不思議な世界を描いているように見えて、実は人間の心理の奥底まで「ぐさっ!」と入ってくるところ。

このシーンへの持って行き方がすごいのだ。

自分は人間ドラマや恋愛ドラマ系の話が嫌いだ。もう40年以上も人間やってきてると、恋愛なんかどうでもいいし、ヒューマンドラマなんかも「もう自分には関係ないし、起こってほしくもないし」なんて斜に構えてる。

だから、映画でも純小説でも「素晴らしい人間心理の描写」とか紹介されていたら、まず見ない、読まない。そこにフォーカスした作品なんか興味ないからだ。

しかし、彼の作品はさっき書いた通り、一見目新しい舞台設定で繰り広げられる生活が進んでいき、そのうち、前半では語られていなかった登場人物たちの深い心理描写へ入り込んでいく。

そこに気持ちよさがあり、読後の「読んでよかった!」という本好きを満足させてくれるクオリティがある。

自分がヒューマンドラマ系が嫌いなのは、とにかく追体験、疑似体験させられるのが辛いのだ。なんで貴重な自分の人生を割いてまで辛い映像や文字を見ないといけないのか、理解できない。

しかし、この作者や米澤穂信が見せる心理描写と展開は、そうではない。最初に心理の奥底の謎が提示され、それをベールに包んだまま物語が進行する。そしてある時爆発するかのごとく、深層心理の闇にメスがすっと入る。

そして解決する(米澤の場合解決しないこともあるけど)。だから、共感できるし、読後が気持ちいい。

本作もそのレベルの作品だった。というか、はるかに前作を超えていた。RPGシリーズまでは「まだまだ修行中なんだね」と感じる部分が多々あったのだが、本作は米澤穂信のレベルに行くのではないかと本気で感じた。

米澤の「ボトルネック」ほどの衝撃はなかったが、米澤が見せる「一見推理小説、しかし実は深層心理の描写の達人」という日本では稀有な才能と同等のものを感じる。

あとがきで、オカルトトリックの続編は書くつもりもなかった、書きたくもなかったと言ってるけど、そんなこと言わないでくれ。

この才能は捨てちゃだめだ。君にはオカルトトリックシリーズを書く義務がある。これだけのファンがいるんだ。そして、続編を書く権利は君しか持っていない。

ただ、RPGもそうだったけど、本作でも誤字、変換ミスがある。自分が見つけただけでも2箇所あった。

どんな魅力的な作品でも、誤字・変換ミスがあると魅力が3割下がる。絶対残しちゃ駄目だ。

ゲラを読む光栄に預かれるなら、私が校正をやる。金なんかいらん。誤字・変換ミスなんか全部見つけてやる。だから発表前に私に読ませてくれ。

久しぶりに人物と心理の描写力に惚れる作家だった。何回も言うけど、米澤穂信以来だった。

頼むから続編を書いてくれ。待ってる。

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